サウナ室の温度は、一般的に80度から100度にも達します。この非日常的な高温環境が、私たちの髪と頭皮にどのような科学的影響を及ぼすのかを理解することは、適切なケアを行う上で非常に重要です。まず、髪の毛の主成分である「ケラチン」というタンパク質について考える必要があります。タンパク質は熱によって構造が変化する「熱変性」という性質を持っています。生卵を茹でるとゆで卵になるのと同じ原理です。髪のケラチンタンパク質も、乾いた状態で60度以上の熱に長時間晒されると、この熱変性を起こし始めます。タンパク質が変性すると、髪の内部に空洞ができ、キューティクルが傷つきやすくなります。これにより、髪は水分を保持する力を失い、パサつきやゴワつき、枝毛や切れ毛といったダメージヘアの状態を招くのです。サウナ室に長時間滞在することは、まさにこのリスクを高める行為と言えます。次に、頭皮への影響です。高温の乾燥した空気は、頭皮の水分を奪い、乾燥を引き起こします。頭皮が乾燥すると、皮膚のバリア機能が低下し、外部からの刺激に弱くなります。これが、かゆみやフケの原因となることがあります。また、身体は乾燥から皮膚を守ろうとして、かえって皮脂を過剰に分泌することがあります。この過剰な皮脂が汗や古い角質と混じり合って毛穴を塞ぐと、頭皮の常在菌が繁殖しやすくなり、炎症などのトラブルに繋がる可能性も否定できません。これらの科学的な影響を考慮すると、サウナを利用する際には、髪と頭皮を熱から守る工夫（サウナハットの着用など）や、長時間の利用を避けるといった配慮が、健やかな頭皮環境を維持するためにいかに大切であるかが分かります。