女性の薄毛と遺伝の関係を考えるとき、男性のAGAでよく知られている「アンドロゲンレセプター遺伝子」だけが原因ではありません。女性の体はより複雑なホルモンバランスの上で成り立っており、髪の健康も複数の遺伝子が関与する多因子的なものと考えられています。その中でも、特に重要視されているのが「アロマターゼ」という酵素の活性に関わる遺伝子です。アロマターゼは、男性ホルモン(アンドロゲン)を女性ホルモン(エストロゲン)に変換する働きを持つ酵素です。エストロゲンは、髪の成長期を維持し、髪を健やかに保つために非常に重要な役割を果たします。遺伝的にこのアロマターゼの活性が高い人は、体内で男性ホルモンを効率よく女性ホルモンに変換できるため、相対的に髪への悪影響が少なく、薄毛になりにくい傾向があると考えられています。逆に、アロマターゼの活性が低い体質の人は、男性ホルモンの影響を受けやすくなり、薄毛のリスクが高まる可能性があるのです。このアロマターゼは、毛包(毛根を包む組織)にも存在しており、頭皮の局所的なホルモンバランスを調整しています。つまり、全身のホルモンバランスだけでなく、頭皮というミクロな環境においても、遺伝的にプログラムされた酵素の働きが、髪の運命を左右している可能性があるということです。また、近年の研究では、髪の太さや密度、ヘアサイクルそのものをコントロールするような、ホルモンとは直接関係のない遺伝子の存在も示唆されています。これらの遺伝子がどのように相互作用し、ストレスや栄養状態といった環境要因と組み合わさって薄毛という表現型に至るのか、その全貌解明にはまだ時間がかかります。しかし、科学の進歩により、遺伝的なリスクを理解することは、絶望するためではなく、より個別化された予防や対策への道を開くための重要な一歩となりつつあるのです。
女性の薄毛と遺伝子の少し深い関係