男性型脱毛症の治療を開始した直後に多くの患者を襲う最大の試練として知られる初期脱毛ですがこれは治療薬が効いていないのではなくむしろ毛根が薬に反応し正常なヘアサイクルを取り戻そうとする過程で起こる極めてポジティブな生理現象であることを正しく理解する必要があります。そもそもAGAを発症した頭皮では男性ホルモンの影響によって髪の成長期が極端に短縮されており十分に太く長く育つ前に成長が止まり休止期へと移行してしまうため細く短い毛が増え全体的なボリュームが低下してしまいます。ここでフィナステリドやミノキシジルといった治療薬を投与すると休止期で眠っていた毛包が一斉に叩き起こされ強力な成長期へと突入するスイッチが入ります。すると毛包の奥底では新しく太い髪の毛が急ピッチで製造され始めますがこの新生毛が成長してくるとそれまで毛穴に留まっていた古く弱い髪の毛が下から物理的に押し出される形で抜け落ちてしまいます。これが初期脱毛の正体であり排水溝に溜まる大量の抜け毛は悲劇の象徴ではなく次世代の強く逞しい髪が生えてくるための場所明け作業が行われている証拠なのです。この現象は通常治療を開始してから約二週間から一ヶ月程度で始まりその後一ヶ月から二ヶ月程度続くことが一般的ですが個人のヘアサイクルの状態や使用する薬剤の強さによって期間や程度には大きな差が生じます。例えばミノキシジルの内服薬のような強力な発毛促進剤を使用した場合毛母細胞の分裂が急速に活性化されるため初期脱毛も激しくなる傾向にあり一日に二百本から三百本もの髪が抜けることも珍しくありませんがこれはそれだけ多くの毛包が反応しているという裏返しでもあります。逆に初期脱毛が全く起こらないあるいは気づかない程度で済む人もいますがこれは元々休止期にあった毛包が少なかったかあるいは薬の効果が緩やかに現れているかのどちらかであり効果がないわけではありません。最も避けるべき事態はこの初期脱毛の時期に「薬が合わない」「余計に禿げた」と勘違いして自己判断で治療を中断してしまうことでありここで止めてしまうと古い髪は抜け落ち新しい髪は育ちきらないという最悪の状態のまま放置されることになってしまいます。初期脱毛は永遠に続くわけではなくヘアサイクルが一周して生え変わりのリズムが整えば自然に収束しその後には産毛ではないしっかりとした髪が生え揃ってくるためこの期間は鏡を見る回数を減らし帽子をかぶるなどして精神的な安定を保ちながら嵐が過ぎ去るのをじっと待つ忍耐力が試される時期だと言えるでしょう。専門医によれば初期脱毛が激しい人ほどその後の回復も劇的であるケースが多いとされており抜け毛の多さは未来のフサフサへの約束手形であると前向きに捉えるマインドセットこそが治療成功への鍵となります。