三十五歳を過ぎた頃から、シャワーの後の排水溝に溜まる髪の毛の量が、明らかに増えていることに気づいていました。AGA治療薬の存在は知っていましたが、インターネットで副作用の可能性について読むたびに、どうしても服用に踏み切ることができませんでした。そんな時、知人から勧められたのが漢方でした。体質から見直すという考え方に惹かれ、私は近所の漢方薬局のドアを叩くことにしたのです。薬局では、白衣を着た薬剤師の先生が、一時間近くかけて私の話をじっくりと聞いてくれました。仕事のストレス、食生活、睡眠時間、そして冷え性や肩こりといった、髪とは直接関係ないと思っていた体の不調まで。その後、舌の色や形を見る「舌診」を受け、私が診断されたのは「気滞血瘀(きたいおけつ)」と「血虚(けっきょ)」が合わさった状態でした。つまり、ストレスで「気」の巡りが悪くなり、その結果「血」の流れも滞り、さらに栄養となる「血」そのものも不足している、というのです。処方されたのは、煎じ薬でした。毎日やかんで煮出して飲むのは正直少し手間でしたが、その土のような独特の香りを嗅ぐうちに、自分の体を労わっているという実感が湧いてきました。最初のひと月は、髪に劇的な変化はありませんでした。しかし、飲み始めて二週間ほど経った頃から、あれほど悩まされていた頑固な肩こりが少し楽になり、夜、布団に入るとすっと眠れるようになったのです。そして二ヶ月目が過ぎた頃、ふと気づきました。朝、枕元の抜け毛が明らかに減っているのです。シャンプーの時に指に絡まる本数も、以前の半分くらいに感じられました。そして、三ヶ月目。髪がフサフサに増えたわけではありません。でも、鏡で見た時、髪の一本一本にハリとコシが出て、根元がふんわりと立ち上がるようになっていました。何より嬉しかったのは、体全体の調子が良くなったこと。漢方は、私の髪だけでなく、心と体の両方に作用してくれたのだと感じています。即効性を求める人には向かないかもしれませんが、自分の体とじっくり向き合い、根本から立て直したいと考える人にとって、漢方は頼もしいパートナーになってくれると、私は自身の経験から確信しています。
私が漢方で薄毛と向き合った三ヶ月