AGA(男性型脱毛症)に悩む多くの人々にとって、治療の選択肢は長らく内服薬や外用薬が中心でした。しかし今、再生医療の分野から生まれた「エクソソーム」という新しいアプローチが、大きな注目を集めています。エクソソームとは、私たちの体内にある様々な細胞から分泌される、非常に小さなカプセル状の物質です。その内部には、メッセンジャーRNA(mRNA)やマイクロRNA(miRNA)、成長因子といった、細胞間の情報伝達を担う大切な物質が含まれています。いわば、細胞から細胞へとメッセージを届ける「手紙」のような役割を果たしているのです。このエクソソームをAGA治療に応用するというのは、弱ってしまった髪の毛の工場、すなわち毛母細胞やその周辺組織に、活力を与えるメッセージを直接届けようという考え方です。特に、若い健康な細胞(主に脂肪や歯髄などの幹細胞)から抽出されたエクソソームには、細胞を活性化させたり、血管の新生を促したり、炎症を抑えたりする多種多様な情報が詰まっています。このエクソソームを頭皮に注入することで、休眠状態に近い毛母細胞を目覚めさせ、乱れてしまったヘアサイクルを正常な状態へと導き、強く健やかな髪が育つための土壌そのものを再構築することが期待されているのです。これは、薬の力で症状を抑えるという従来の対症療法とは一線を画す、身体が本来持つ再生能力を引き出すことを目指した、根本的なアプローチと言えるでしょう。