漢方における薄毛治療は、一人ひとりの体質や症状に合わせて処方が決定されるオーダーメイド医療です。しかし、その中でも特に薄毛や抜け毛の改善を目的として頻繁に用いられる、代表的な漢方薬がいくつか存在します。ここでは、その一部をご紹介しますが、自己判断での服用は避け、必ず専門家の診断のもとで適切な処方を受けるようにしてください。まず、加齢に伴う抜け毛や白髪、足腰の衰えや耳鳴りといった症状が見られる「腎虚」タイプの薄毛に効果が期待されるのが「八味地黄丸(はちみじおうがん)」です。体を温め、「腎」の働きを高めることで、生命エネルギーの消耗を補い、老化現象としての抜け毛にアプローチします。特に、冷え性で疲れやすい中高年の方に適しているとされます。次に、貧血気味で顔色が悪く、皮膚や髪が乾燥しがちな「血虚」タイプの方に用いられるのが「十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)」や「人参養栄湯(にんじんようえいとう)」です。これらは「気」と「血」の両方を補う作用があり、胃腸の働きを高めて栄養の吸収を助け、血行を促進することで、髪の毛に十分な栄養を届け、ハリやツヤを取り戻す手助けをします。産後の抜け毛や病後の体力低下に伴う薄毛にも応用されます。また、ストレスが原因でホルモンバランスが乱れがちな女性の薄毛には「加味逍遙散(かみしょうようさん)」がよく用いられます。イライラや不安感を和らげ、「気」の巡りをスムーズにすることで、ストレスによる頭皮の血行不良やホルモンの乱れを整えます。頭皮の炎症やのぼせを伴う場合に特に効果的です。このほかにも、頭皮の血行不良が著しい「瘀血」タイプには「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」が、胃腸が弱く栄養を十分に吸収できないタイプには「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」が処方されるなど、その選択肢は多岐にわたります。これらの漢方薬は、単に髪を生やす薬ではなく、あくまで体全体のバランスを整えるためのもの。自分の体質に合った漢方薬を服用することで、初めてその真価が発揮されるのです。
薄毛対策でよく用いられる漢方薬